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第169話「2020年 首都圏中学入試をふりかえって」

2020年7月22日

前回までは各地域の国公立・私立中学の学校別の入試状況を見てきましたが、今回は2020年入試の全体的な動向について考えて見ます。

中学入試の応募者・受験者数の都県別の統計は都道府県などの公的機関による集計がないので各学校から公表された数値をもとに各模試会社や大手塾が集計したデータが発表されていますが、下記の述べる理由によりいずれも推計です。また推計方法の違いから各社の数値には微妙な違いがあります。本稿では首都圏模試センターで集計した数値をメインに使いますが、一部に森上教育研究所のデータを使用します。


1. 一都三県の小6卒業生数と中学受験率

(1)一都三県の小6卒業生数
2020年の東京・神奈川・千葉・埼玉の一都三県の小6生(現中1)は297,280名で前年比1.0%の増加でした。全国的には少子化が進行していますが、首都圏では東京が2.3%増、神奈川1.0%増、千葉は微増で埼玉は微減です。2020年をピークとして今後は減少傾向に転じますが、ここしばらくは東京の増加が続くのでそう大きな減少にはならない見込みです。
(2)一都三県の国・私立中学受験者数と中学受験率(一都三県、公立一貫校のみ受験者を除く)
首都圏の中学入試の受験率の推定には東京・神奈川の2/1午前の実受験者数がベースとして使われます。多くの受験生は2/1の午前入試を受験するからです。ただし2つの理由から2/1午前の受験者数が首都圏の受験者数と同じではありません。
1つ目は千葉や埼玉の私立中の評価が上がっており、2月の東京入試を受けることなく受験生が1月中の千葉入試・埼玉入試で合格し入学を決めて2月以降の東京・神奈川の入試を受験しないケースが増えているからです。
2つ目は2/1午前を受験せずに2/1午後ないし2/2から受験を始める受験生が少数ながらいるためです。
これらの条件を勘案しての首都圏模試センターの受験者数の推定値は前年より2,000名強多い49,400名(4.7%増)です。また過去20数年の中学受験率の推移をみると、1999年から上がり続け2008年には16.6%まで上昇しましたが、この年に発生したリーマンショックにより2009年から2014年までの5年間下がり続け14.1%まで下がりました。2015年から再び上昇に転じ2020年春の受験率は16.6%と推定されています。

2. 2020年首都圏中学入試の特長

(1)学校所在地別の受験者数

東京の23区城北地区・城東地区、23区城南地区・城西地区、多摩地区、および神奈川、千葉、埼玉にわけて2019→2020年の受験者の前年比の推移をみていきます。
ただしこの地域は学校の所在地であり、受験生の居住地域ではないことに注意してください。たとえば埼玉の栄東などは1万人を超える受験生が集まりますが、東京・千葉・神奈川からの受験生が大量に受験しています。

城北・城東地区 +2.6%→+9.8%
城南・城西地区 +4.1%→+3.1%
多摩地区 +4.3%→-0.6%
神奈川  +2.8%→+0.5%
千葉   +3.2%→+5.2%
埼玉   +8.5%→+8.8%

これをみると東京の城北城東地区が2020年入試で大きく受験生を増やしていることがわかります。また都内で最も中学受験率が低いといわれてきた多摩地区は首都圏で唯一受験者の増減の前年比がマイナスになっています。また神奈川の受験者増加の前年比が女子校の3.0%減が響いて非常に小さくなっていること、埼玉の受験者増加の前年比が2年連続で大きく上がっているのが注目されます。なお神奈川の小6の女子は微増ですから女子の受験者の3%減の原因は都内の学校の受験者が増えているためです。
(2)学校種別の入試状況

かつて共学校人気が高くなって共学校の応募者は右肩上がりに増え、一部のトップ校を除き男子校や女子校は生徒募集に苦戦しているといわれていましたが、ここ数年の状況を見ると男子校、女子校、共学校の受験生の増減は学校種別の差がなくなってきています。一都三県の男子校、女子校、共学校別の2019→2020年の受験生の前年比の推移は、

男子校 +4.8%→+3.7%
女子校 +3.8%→+3.9%
共学校 +4.3%→+4.9%

以上のように男子校は増加率がやや下がっていますが、女子校は増加率がわずかに上がっています。また共学校は増えていますが上位校の増加率は0~2%程度で小さいのに対し、中堅以下の共学校の増加率は4~10%と大きくなっています。
(3)大学付属校人気の動向

センター試験の廃止や記述型の導入などの大学入試改革に対する不安にくわえ、文科省の大都市圏メジャー私大の定員厳格化政策によって早慶上智やGMARCHなどの大学の入試難易度が上がり、ここ数年系列の付属中高の人気が上昇していました。しかし2020年入試の状況を見るとこの傾向は一段落ついてきたようです。
系列大学への進学率の割合で、付属校(70%以上)、半付属校(30%以上70%未満)、進学校(30%未満)にわけた2019→2020年の受験生の前年比の推移は、

付属校  +3.7%→+1.9%
半付属校 +0.7%→+10.7%
進学校  +4.7%→+4.2%

と付属校の応募者は増えていますが増加率は下がっています。これに対し半付属校の応募者前年比の大幅アップが注目されます。半付属校の人気は系列大以外の多様な進路選択と他大学進学準備への対応の魅力にくわえ、セイフティネットとしての併設大への進学保障によるものでしょう。
(4)受験率、平均受験校数の推移

首都圏中学入試の受験者数(推定)と受験率の2016年~2020年の推移を以下に示します。(人数には公立中高一貫校のみの受験者数を含んでいません。)

受験者数 43,700→44,200→45,000→47,200→49,400名
受験率  14.75→15.14→15.82→16.04→16.46%

また一人あたりの平均受験校数の2016年~2020年の推移は、

受験校数 6.7→6.6→6.5→6.7→6.7校

以上により2020年は直近の5年間では受験者数、受験率、平均受験校いずれも最高であったことがわかります。
(5)新タイプ入試の動向
従来の私立中学入試の入試科目は2科入試、4科入試あるいは2科・4科選択入試で、これ以外では面接の有無や午後入試などがありますが、入試科目はほぼ2科・4科の学科試験と適性検査型だけでした。
ここ数年で様々な新タイプ入試が爆発的に増えて入試科目や入試方法が多様化しているのはご存じのとおりですが、2020年入試ではどうだったでしょうか。ここでは「算数入試」「英語入試」「総合型・合科型」「思考力型」「自己アピール・プレゼン型」について見ていきます。
算数入試
かつて算数入試といえば男子校の専売特許でしたが、ここ1~2年で急速に女子校や共学校で算数入試を導入する学校が増えました。2020年入試では4校が新規導入しています。応募者が10名以上あった学校は29校でそのうち応募者が100名以上の学校は15校でした。応募者数200名以上の上位8校は、巣鴨766名、世田谷学園544名、田園調布学園356名、高輪335名、普連土学園284名、品川女子学院254名、山脇学園231名、鎌倉学園213名の8校、すべて午後入試で半分の4校は女子校です。応募者数から見ると新タイプ入試で最も成功している入試です。英語入試やプレゼン入試と異なり、算数入試は塾で従来型の学習をしてきた受験生で、応募者数は学校の難関大学の合格実績に大きく左右されるので、多くの受験生を集めているのは中堅以上の人気校ばかりです。
英語(選択)入試
進化するグローバル教育や小学校での英語の教科化を背景として、中学入試の世界にも帰国入試以外に英語を入試科目に導入する学校が急速に拡大しています。まだ御三家などの難関校への導入はほとんどありませんが、2019年入試における慶應湘南藤沢への導入は初の難関校への導入として注目されましたが、今のところ慶應湘南藤沢に続く学校はありません。現在の英語入試の多くは英語を選択できる入試で定員の多い主力入試で英語を必修とする入試を行っている学校はありません。一都三県の2020年入試で英語(選択)入試を実施したのは130校(私立128校、公立1校、国立1校)でした。
応募者が100名を超えたのは三田国際学園のインターナショナル入試のみで2回合計151名でした。50名以上は三田国際学園のほか、山脇学園、東京都市大等々力、共立女子の4校、30校以上まで下げると上記のほか、浦和実業学園、東京都市大付、麹町学園女子、桜丘、桐蔭学園と9校で、ほとんどはもともとの人気の高い学校です。残念ながらほとんどの学校は一桁で、前年より応募者が減っている学校もあります。昨年まではやっていたが今年は実施を取りやめた学校もあります。今後も実施校は増えていくでしょうが、受験生が集まる学校は限定的でしょう。中堅校の多くは進学塾ではなく英語塾や英会話教室に通う層をターゲットにしていますが、この層を私立中学受験に向けさせるのは簡単ではなさそうです。
思考力入試
新タイプ入試を代表する入試で大学入試改革を強く意識した入試です。総合思考力、ものづくり思考力、論理的思考力、思考力プレゼン型など様々なバリエーションがありますが、いずれもあるテーマにもとづいて考えたところを文章で記述、または口頭で回答する入試です。2020年入試で応募者が100名を超えたのは昭和女子大附の159名、かえつ有明の128名、聖学院の104名の3校、50名以上は上記に加え跡見学園、日大豊山女子、桐朋女子、大妻中野、宝仙理数インター、桜丘の19校、20名以上は上記に加え東洋大京北、十文字、文京学院大女子、工学院大附、大妻多摩の14校でした。
上記の学校はいずれも近年の学校改革で支持を集めている学校で、学校改革と入試改革が連動している学校です。典型的には東洋大京北の「哲学教育」志向・表現力入試で、中学校で行われている「哲学」の授業と連動していて主旨と目的が明快です。
探究型入試・プログラミング入試・STEM入試
この1~2年で新たに登場した入試に「探究型入試」、「プログラミング入試」、「STEM入試」等があります。探究型授業は京都市立堀川高校で開始され成果を上げた教育です。意欲的な教育を行っている公立・私立の学校で導入が進んでいますが、これを入試に取り入れたものが「探究型入試」です。「STEM教育」はアメリカのオバマ大統領以来積極的に奨励されるになったもので、ロボットやIT技術にふれて自分で学ぶ力を養う新しい教育で「プログラミング教育」もその一つです。米国の他、インドやシンガポールなどの新興国でも盛んに「STEM教育」を取り入れた教育が行われていますが、残念ながら日本での導入はやや遅れています。2020年からスタートした学習指導要領に基づきプログラミング教育の小学校での導入が始まっていますが、設備面と人的基盤の充実は遅れているようです。STEM入試はSTEM教育を入試に取り入れたものです。導入校の数は少ないのですが、偏差値に基づく学校選びではない、伝統的な教育の価値観とは異なる先端的な教育に関心のある保護者からは注目されています。

(おわり)


【ブログ終了のご挨拶】

中学入試についてのブログ「そうだったのか!中学入試」は今号第169話をもって一旦終了いたします。長い間のご愛読ありがとうございました。

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