コラム「そうだったのか!中学入試」
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第16話 「データの裏を読む――大学進学実績のあれこれ――」

2011年7月7日

第9話から入試の話がずっと続いていましたが,今回は話題を転じて,「大学進学実績」についてのお話です。「いちしんニュース」の最新号で「大学合格実績」特集をお届けしましたが,そこでは伝えきれなかった「大学進学実績」の見方などを今回と次回にわたってお話していきたいと思います。

さて中学入試で学校選びの選択の基準には,「宗教系」と「非宗教系」,「付属校」と「進学校」,「共学校」と「別学校」といった基本的な学校の種別,また「校風」,「通学の便」,「学費」,「カリキュラム」,「進学指導」,「補習・講習」,「国際交流・海外研修」,「校舎・設備」,「制服」,「学校行事」,「部活動」, あるいは「校長先生の人柄」,「校長先生の指導力」,「教職員の組織体制」,「先生方のやる気」,さらには「学校法人の財務状況」など様々な観点があり,それらを総合的に判断して決めることになると思いますが,その中でも「大学進学実績」が選択基準の大きな要素であることは言うまでもありません。 「大学進学実績」だけで志望校を決める方はいないでしょうが,「大学進学実績」をまったく考慮せずに志望校をきめる方もいないのではないかと思われます。「大学進学実績」は学校選択に際し,最大ではないとしてもきわめて重視されているというのが実情でしょう。

それでは「大学進学実績」について,何をどのように見ていけばよいのでしょうか。たとえばよく週刊誌などで話題となる東大合格者数はトップレベルの学校の評価にとっては重要でしょうが,学校数で多数をしめる中堅以下の学校の「大学進学実績」を判断する材料には必ずしも適していません。 それでは国公立大,早慶上智大,GMARCH(学習院+明治・青山・立教・中央・法政),日東駒専(日大・東洋・駒澤・専修)などの大学階層別合格数はどうでしょうか。これはかなりその学校の進路状況の実態を反映していそうです。しかし同じ慶應大合格者10名でも卒業生が160名の学校と500名の学校では全く意味が変わってくるでしょう。 学校規模が異なる学校を比較するためには合格者の人数だけではなく卒業生数に対する比率を考えなければいけないのは常識に属することでしょう。 また私立大は重複合格者がいますから,MARCH合格者が40名いるといっても実際に受かった生徒は15人しかいないかも知れません。

「大学進学実績」を見ていくときの観点を思いつくままにあげれば,合格者数,合格者の卒業生数に対する比率,大学別の合格者数と進学者数,一貫生と高校入学生の比率,また現役進学率や文系・理系の比率,医歯薬系の進学率,あるいはセンター試験の受験率,推薦入試やAO入試による合格者の比率などがあります。 どれも重要でしょうが,その中の1つだけですべてを判断することはできません。

さらに1年間だけの結果で判断するのも正しくありません。どんな学校でも年によって変動があります。各学年の生徒集団の個性や学力差,進路の志向性の差,指導する教師陣の個性や力量差(特に持ち上がりの学年団方式の場合に顕著)があるために「大学進学実績」もそれに左右されます。数年間の動向を見ることで実績の伸び, あるいは低迷,後退などの状況がみえてきます。少なくとも3年間,できれば5年以上の進路状況を見ることで,その学校の推移を把握することができるでしょう。今回はこれらの中からいくつかの観点に絞って進路状況の見方についてお話いたします。

「合格実績」と「進学実績」について

「合格」と「進学」の意味が違うのはだれでもわかることですが,多くの学校のパンフレットやホームページなどで「大学進学実績」として掲載されているのは,実はほとんどが「大学合格実績」です。そのことに気づいてはいていても,なんとなく当たり前のものと受け止められているのではないでしょうか。 また合格者数も現役生・過年度生(浪人生)の合計で表示されていて現浪の区別が不詳の学校も多いようです。

正確に進路状況を把握するためには少なくとも現浪別に合格者数と進学者数のデータが必要となりますが,それを完全に満たすデータを公表している学校は残念ながらきわめて少数です。ここではこれらを公表している数少ない学校の事例から,その学校の国公立大,早慶上智大やGMARCHの進学者数・進学率といった進路状況の実際を 「合格者数」と「進学者数」を比較しながら見てみましょう。なお本稿では合格者数を卒業生数に対する割合で表すために「合格者率」という言葉を使います。「合格率」が受験者中の合格者の割合を表すのに対し,「合格者率」は卒業生数のなかで○○大学に合格した人数の割合を表すものとします。 ただし私立大では重複合格者(同じ大学の複数学部・学科,あるいは複数大学に合格の場合)がいますので,特に早慶上智大合格者(合格者率)などのように複数大学をグルーピングして考える場合に重複合格者が多くなると予想されるため,合格者数は延べ数ではなく実際の頭数・実数を推定した数値を用います。

頌栄女子学院
頌栄女子学院
頌栄女子学院(港区)
頌栄女子学院  頌栄女子学院は創立128年目となる港区白金台にあるキリスト教主義の完全中高一貫校です。英国に現地の大学との合弁によって設立されたウインチェスター頌栄カレッジがあり毎年10数名が進学していますが,大学付属校ではありません。
中学入試では女子御三家に次ぐグループの学校で帰国生が多く,第1回入試は市進偏差値で60,首都圏模試偏差値では63に位置し,第一志望率が高いことで知られています。今年2卒業生数は226名で,四年制大学への現役進学者は187名で82.7%,ウインチェスター頌栄カレッジへの現役進学者は11名で4.9%,浪人その他が28名で12.4%でした。 .

国公立大 現役 浪人
合格者 31 8 39
進学者 24 7 31


現役で入学を辞退しているのは,千葉大2名,東京外大3名,横浜市大1名,神奈川保健福祉大1名の計7名で,早慶上智大やICUなどの志望順位の高い私立大学へ進学したものと思われます。
2011年3月の卒業生数は226名で国公立大は重複合格がありませんから,卒業生数に対する国公立大現役合格者率は13.7%,現役進学率は11.4%となります。また現浪合わせた国公立大合格者率は17.3%,進学率は13.7%です。(ただし今年浪人した受験生が前年の浪人と同様の大学に,2012年入試で同じ割合で合格・進学すると仮定。以下同様)

早慶上智大 現役 浪人
合格者 190 18 208
進学者 74 7 81


現役の合格者は3大学の大学間,学部・学科間の重複合格も合計すれば延べ190名,(同じ大学の複数学部・学科の重複合格を1名とすれば延べ152名)となります。進学者74名との差は複数大学への合格者の多さ,難関国公立大との併願者の多さの結果でしょう。私立大学は重複合格がありますから, 卒業生226名中で早慶上智大の現役合格者が190名なので,現役合格者率は84.1%という計算は成り立ちません。実際に早慶上智大に合格したダブリなしの頭数は,おそらく早慶上智大進学者74名と国公立大進学者24名,それに加えて早慶上智大に合格していても医学部や国公立大リベンジのための浪人が数名はいると見て100名前後と思われます。 あえて早慶上智大の現役合格者率を推測すれば44%前後ではないかと思われます。進学者には重複はありませんから,早慶上智大の現役進学率は卒業生226名中74名で32.7%,ほぼ3人に1人です。現浪合わせた進学率は35.8%となります。

MARCH 現役 浪人
合格者 166 26 192
進学者 37 6 43


普通は難易度の高い大学ほど合格者が少ないはずですが,早慶上智大の現役合格者が190名で,MARCHの現役合格者が166名というのは,頌栄女子学院の生徒の学力的なボリュームゾーンがちょうど早慶上智大受験のレベルであるということでしょう。
MARCH現役合格者の実数は国公立大,早慶上智大との重複合格が90名強とすれば,これにMARCH進学者37名を加えて135名前後で,MARCHの現役合格者率は約60%となります。現浪合わせた合格者率は65%前後でしょう。また現役進学率は16.4%,現浪合わせた進学率は19.0%です。

全体の進路状況

以上でみてきた国公立大,早慶上智大,MARCHの推定合格率と進学率をまとめると,

  現役合格者率 現浪合格者率 現役進学率 現浪進学率
国公立 13.7% 17.3% 11.4% 13.7%
早慶上智 44.0% 48.0% 32.7% 35.8%
MARCH 60.0% 65.0% 16.4% 19.0%
117.7% 130.3% 60.5% 68.5%


となります。もちろん合格者率の方は現役・現浪計ともに推測を交えた数字ですからあくまで1つの参考としてみてください。しかし進学率はダブリも推測もない正確な数字ですから,そこから見れば頌栄女子学院の生徒は44.1%が国公立大,早慶上智大に現役進学,また浪人(ほぼ全員1浪)まで含めれば49.5%,つまり2人に1人は国公立大, 早慶上智大に進学しているわけです。さらにMARCHまで含めれば60.5%がMARCH以上に現役進学し,浪人を含めれば68.5%すなわちほぼ7割がMARCH以上に進学していることになります。
なお現浪あわせた系統別の進学状況では,文系が73.7%,理系が20.9%,その他(芸術・家政等)が5.4%で,同レベルの女子校にくらべると文系への進学者が多く,理系が少ないことが国公立大の割合にも反映していそうです。

筑波大附駒場
筑波大附駒場
筑波大附駒場(世田谷区) さて次は筑波大附駒場です。国立大付属中唯一の男子校で,市進偏差値で73,首都圏模試偏差値では79に位置する文字通りのトップ校です。ケーススタディとしてはあまりにも特殊な進路状況ですが,わかりやすい例として取り上げてみます。なお今年の卒業生は160名で,四年制大学への現役進学は110名で68.8%,他は浪人です。

国公立大 現役 浪人
合格者 93 47 140
進学者 91 44 135


現役生で入学を辞退しているのは山梨大医学部と横浜市大医学部が各1名,浪人生では東工大,東京農工大,浜松医科大が各1名で,進学先は慶應大医学部あたりでしょうか。また国公立大現役合格者93名のうち東大が74名,浪人47名のうち東大が29名で,現浪あわせた140名中103名が東大です。あとは京大,一橋大,東工大が数名ずつで, 他はほとんど医学部です。国公立大の現役合格者率は58.1%,進学率は56.9%,現浪合わせた合格者率は87.5%,進学率が84.4%という非常に高い割合になっています。これは裏返して言えば各学年で私立大学へ進学しているのが160名中20数名しかいないという,他の学校ではとても考えられない進路状況と言えましょう。 ちなみに東大は合格者全員が進学しており,現役合格者が74名で進学率は46.3%でほぼ半数,現浪合わせれば103名で進学率は64.4%でほぼ3人に2人です。なお東大合格者数で全国1位の開成は卒業生400名で東大の現役合格者が116名で,現役合格者率は29.0%,現浪合わせれば171名で42.8%です。

早慶上智大 現役 浪人
合格者 60 44 104
進学者 15 3 18


上記は早慶上智3大学の合計ですが,実は上智大は現役合格者がいません。浪人では合格が3名で進学が1名です。筑波大附駒場だけではなく麻布や開成などの男子のトップ校では上智大を受験する生徒がほとんどいないので,早稲田大,慶應大に比べて著しく合格者数が少なく,進学者はほとんどいないようです。 さて早慶上智大の現役合格者は延べで60名しかいません。先ほどみたように国公立大の現役合格者は93名(東大は74名)でこれはダブリを含まない実数です。彼らが早慶上智大を併願受験していればほとんど合格するでしょうから,少なくても90名前後の合格者がいてもおかしくはないのですが実際には60名で,これは重複合格者がいるはずですから実数では40名前後でしょう。それでは国公立大に現役合格した93名のなかの半数以上はどこを併願校としたのでしょうか。実は現役東大受験者のほとんどは東大しか受験していないのです。少なくとも現役では東大以外に行く気はないので,早稲田,慶應などは受験しないわけです。
早慶上智大の延べ合格者が104名で実際に進学したのは現浪合わせても18名しかいないということは,この学校の生徒にとっては早慶上智大の合格実績は100名だろうが200名だろうがほとんど意味がないということになります。極論すればこの学校にとっては早慶上智大の合格者数は少ない方が(余計な金,労力を使わずにすむので)よいのかもしれません。
なおMARCHは現浪合わせて合格者が25名で,進学者が2名(現浪各1名),その他は私立大の医学部などです。特筆されるのはアメリカ東海岸の一流大学アイビーリーグ8大学のなかでもビッグスリーといわれる超一流大学,ハーバード大,プリンストン大とならぶイェール大に現役合格者が1名いることです。

全体の進路状況

早慶上智大のダブリのない現役合格実数を45名,現浪計の合格実数を60名,MARCHの現役合格実数を2名,現浪計を12名と推定して推定合格者率と進学率をまとめると,

  現役合格者率 現浪合格者率 現役進学率 現浪進学率
国公立 58.1% 87.5% 56.9% 84.4%
早慶上智 28.1% 37.5% 9.4% 11.3%
MARCH 1.3% 7.5% 0.6% 1.3%
87.5% 132.5% 66.9% 97.0%


神奈川大学附属
神奈川大学附属
神奈川大学附属(横浜市緑区)
1985年に神奈川大学の付属の男子校として開校した県内では比較的新しい学校で,高台にある広大なキャンパスとのびのびした校風で知られています。開校3年後の1988年には共学化され,現在では付属校としてではなく完全中高一貫の共学進学校として評価を高めています。 入試では市進偏差値で57,首都模試偏差値で59という中堅上位に位置する学校です。なお公表データで合格者の現浪別はわかるのですが,進学者数が現役しか公表されていないためやや不完全ですがご了承ください。今春の卒業生は227名で,現役4年制大学進学者は190名で現役進学率は83.7%です。 .

国公立大 現役 浪人
合格者 36 5 41
進学者 31 - -


主な国公立大は東大1(1),一橋大3(2),東北大2(2)北大2(2)阪大1(0)筑波大3(3),横国大3(3)横浜市大4(4)などです。(( )内は現役で内数)国公立大現役合格者率は15.9%,現浪合わせれば18.1%,現役進学率は13.7%です。

早慶上智大 現役 浪人
合格者 51 13 64
進学者 24 - -


現役の延べ合格者は51名ですが実数では36名前後と思われ,早慶上智大現役合格者率は15.9%,また現浪計の実数では43名前後で,合格者率は18.9%と推定されます。現役進学率は12.3%です。

MARCH 現役 浪人
合格者 196 30 226
進学者 57 - -


MARCHの現役合格者は延べ196名ですが実数で120名とみればMARCH現役合格者率は52.9%,浪人の合格実数を15名とみて現浪合わせた合格者率は59.5%と推定され,現役進学率は25.1%です。

神奈川大学 現役 浪人
合格者 123 1 124
進学者 10 - -


これを見ればわかるとおり神奈川大は合格者こそ124名もいますが,実際の進学者は現役では10名しかいません(浪人の1名が進学していても11名)から併設大への進学率は 4.4%です。進学の実態からいってほぼ完全な進学校といえるでしょう。

全体の進路状況

国公立大の合格率,早慶上智大,MARCHのダブりを除いた推定合格者率と実際の現役進学数から進学率をまとめると,

  現役合格者率 現浪合格者率 現役進学率 現浪進学率
国公立 15.9% 18.1% 13.7% -
早慶上智 15.9% 18.9% 12.3% -
MARCH 52.9% 59.5% 25.1% -
84.7% 96.5% 51.1% -


となります。国公立大,早慶上智大,MARCHの現役進学者合計が112名で現役進学者総数が190名ですから現役進学率は51.1%ですが,現役進学者中でMARCH以上に進学したのは58.9%です。これに学習院大や東京理科大へ進学した各4名などを加えてみれば,現役進学者中約6割がGMARCH以上の大学へ 進学していることになります。また浪人した生徒を合わせればMARCH以上の大学への進学率は65%前後と思われます。なおそれ以外の現役の進学先は前述の神奈川大10名のほか,日大12名,東京農大4名,成蹊大,明学大,東海大,北里大が各3名などです。

さてここまで見てきた3校の事例によって見えてくる問題を指摘しておきましょう。

「合格者数」と「進学者数」は比例しない

国公立大の合格者数はダブリのない実数なのに対し,私立大の合格者数はダブリがあり,進学者数の方は国公立大,私立大ともに実数ですから,国公立大と私立大の合格者数と進学者数が比例しないのは当たり前です。しかも両方受かれば志望順位の高い方へ進学しますから,特に私立大の場合に合格者数と進学者数の間の乖離は さらに大きくなります。筑波大附駒場のように国公立志向,特に東大志向が非常に強いと,私立大はたとえ慶應,早稲田といえども一部の生徒が併願校として受験しているだけで,合格者は多く見えても進学者は少数にとどまります。

その学校のボリュームゾーンに注目

どのようなレベルの学校でも生徒の学力的なボリュームゾーンによって,主なターゲットの大学があり,その上下のレベルの大学とは合格者数や進学者数に大きなズレが生じます。たとえば頌栄女子学院と神奈川大附の現浪合わせた国公立大の合格者数は39名と41名とほぼ同数ですが,早慶上智大の合格者数は208名と64名で神奈川大附は 3分の1以下,MARCHの合格者数では192名と226名で神奈川大附が約1.2倍になっています。国公立大の合格者数では同レベルの実績に見えても(大学の銘柄からみれば頌栄女子学院の方が上),主なターゲットの大学が頌栄女子学院では早慶上智大,神奈川大附ではまだMARCHが主力の段階です。

進路状況の実態は「進学者数」にあらわれる

これは今まで見てきたことからも明らかでしょう。実際の進路状況は「合格者数」からはなかなか見えてきません。推薦やAO入試の合格者が多い中堅校では「合格者数」と「進学者数」に大きな乖離はありませんが,一般入試による難関大受験が中心の学校では両者に大きなズレが生じます。進路状況の実態は「進学者数」 で見なければわかりません。「週刊朝日」7/8号で全国1,734高校の大学別現役進学者数を調査結果が掲載されていますが,浪人生の進学数は調査されておらず,開成など未回答の学校もあるようです(回答率82.8%)。不明の学校については学校説明会などで質問して概数でもわかれば大いに参考になるでしょう。

(おわり)

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